パンダイラストクッキー事件

本事件は被告の菓子製造販売業者が商品パッケージに使用しているパッケージが、原告のデザインした手ぬぐいのイラストに酷似していることから
著作者人格権及び著作権を侵害しているとして、被告に対しイラストの複製等の差し止めや損害賠償等を求める訴訟を提起したものである。
一方、被告の菓子背像販売業者は対象となるパッケージデザインは外注業者に委託して採用したものであるから、故意又は過失の事実はないと主張した。
東京地裁平成31年3⽉13⽇判決 平成30(ワ)27253著作権侵害差⽌等請求事件http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/572/088572_hanrei.pdf

本事件で次の4つの争点が争われた。
1.著作権及び著作人格権の侵害の事実があるか、または侵害するおそれがあるか。
2.著作権及び著作人格権の侵害に故意又は過失の事実が認められるか。
3.損害の発生があるか。
4.謝罪広告の必要性があるか。

争点1については複製権の侵害が認定された。複製権の侵害が認められる要件は「類似していること」、「元の著作物に依拠していること」でであるが、本件では被告のイラストは原告の本件イラストと瓜二つであり、いわゆるデッドコピーであるため、裁判所は「類似」を認定するとともに、「その同一性の程度は非常に高いものであるから、被告イラストは本件イラストに依拠して有形的に再製されたものと推認できる」と判断した。
争点2については被告の過失が認定された。被告はイラストの作成を別の会社に委託しており、外注業者の制作に係るデザインについてすべてを管理することは事実上困難と主張しましたが、裁判所は、「商品の製造を第三者に委託していたとしても、イラストの作成経過を確認するなどして他人のイラストに依拠していないかを確認すべき注意義務を負っていた」として被告の過失を認定した。
争点3については原告の損害額は42万3260円であると認められた
争点4については原告の名誉、声望が毀損されたとは認められず謝罪広告の必要性は無いとされた。

今回同様類似性が問題となったには事件には次のようなものがある
「スイカ写真事件」コマーシャル写真の構図や配置が類似しているとして問題となった。
「村上隆ナルミヤ事件」ナルミヤのキャラクターが村上隆のキャラクターに類似しているとして問題となった。
「ミッフィー対キャシー事件」サンリオのキャラクター「キャッシー」が「ミッフィー」に類似しているとして問題となった。

専門家の間では著作権の「類似性」には3つの判断基準があり実務的にはほぼ確定しているという(江差追分事件最高裁平成13年6月28日判決)。
方法としては「両作品を比較して共通部分を抽出し、その共通部分を検討する」という手法が用いられる。
具体的な判断基準は次に示すようになる。
1.抽出した共通の部分が、アイデアや思想に過ぎない場合は類似性否定。
2.抽出した共通の部分に表現上の創作性がない場合は類似性否定。
3.抽出した共通の部分に「表現上の本質的な特徴の同一性」がある場合にはじめて類似性肯定。
(参考文献 https://storialaw.jp/blog/855)

本件では表現上の本質的な特徴の同一性があるとして類似が認定されたが、デザイナーの視点からは納得できない部分がある。
それは原告パンダの親子のイラストのデザイン上の要部はどこにあるかということである。
「婦人と老婆」というだまし絵は多くの人が目にしていると思う、見方によって斜め後方を向いている若い婦人に見えたり、右を向いた老婆の横顔に見えたりする絵である。
原告の親子パンダのイラストもよく見ると一匹のパンダのようにも見える。黒く塗りつぶされたパンダの腕の部分があえて分離されておらず共通領域になっていることも錯視の効果が出ているように見える。
この部分がデザインのポイントなのではないだろうか。
一方被告の親子パンダのイラストはグレーのアウトラインで完全に2匹のパンダと認識できるイラストであり、前記の錯視効果は完全に取り除かれていて、どう見ても一匹のパンダの顔には見えない。
確かに外形ラインは類似しているが、ごくありふれた親子パンダの日常生活の瞬間とも見える。
実際2000年初頭に発売されたロイヤルコペンハーゲンのパンダコレクションの置物も顔を寄せ合った似通った構図の置物である。
そうすると裁判で抽出されている共通の部分は表現上の創作性がない部分なのではないか。
おそらく原告とその弁護士はそのことを十分承知で、あえてイラストのデザインのポイントであるこの錯視効果については定義しなかったのではなかろうか。
逆にこの大事なポイントに気づかず外観の類似のみの論争に引きこまれている被告の弁護士は残念ながら適任ではなかったと言える。
論点を錯視のイラストに持ち込めれば新たな論争に展開して、一方的な敗訴にはならなかったであろう。
本事件は完全に被告側の作戦負けの裁判であったと思う。

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